東京ハードボイルド

インターネットを使い始めてからもうすでに20年以上の月日がたっていると考えるとなんだかぞっとする。

3年前に台北に行ったときのこと 第十章 超按摩


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 これは3年前に台湾へ行ったことを電子書籍化した文章を、ブログ用に追記、校正したものである。全部で十三章になっている。

前回までのあらすじ
40歳になる前に海外旅行へ行ったことないおっさんが、台湾へ一人で行こうとしてパスポートを取ったりする。航空チケットやホテルの予約などに奔走し、ようやく空へ飛び立つ。台湾に到着後ホテルへ向かい、すぐに観光に出かける。まずは行天宮に向かって人の多さに圧倒される。その後、近くにある占い横丁へ向かい占いを堪能し、腹が減ったので夜市へ向かうことに。夜市では思った以上に食文化の違いにカルチャーショックを受け、結果日本食の定食屋で夕食を食べ、翌朝の朝食を買うためにコンビニへ向かう。無事に朝食をゲットして翌朝、ニニ八公園へ向かうことにしたが、雨で誰も公園にいない。国立博物館へ向かう。博物館を堪能して総統府と台北駅に立ちよったが昼になり腹が減ったので小籠包を食べるためにさらに歩いた。しかし、小籠包をあきらめさ迷い歩いた先でラーメン屋に入る。ラーメンを食べることに成功したあと、ラーメン屋と同じデパート内にあるサウナに行ってみることにした。

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第十章 超按摩

サウナ

私はまずサウナルームに向かった。扉を開けるとそこは私の初めて体験するサウナだ。
テレビでよく見る想像した通りのサウナがあり、想定した木製のベンチがありそれに腰を下ろした。
確かに暑い。だが、感想としては真夏にエアコンが壊れた車に乗っているときとさほど遜色ない感覚である。

 サウナルームにはテレビがついていた。

その画面を見てにやにやしているおっさんがいたのだが、番組はどうやらバラエティ番組らしい。
画面の中では小太りの男が細身の男と一緒になにやらおどけている。中国語なのでさっぱりわからないがおどけていることだけは伝わる。
私は暑さに慣れてしまったので一旦冷却ルームへ入るためにサウナを出てとなりへ向かった。冷却ルームはその冷却感を醸し出すためなのかガラス越しに見ると白く煙って見えた。中に入るとその白い感じは演出ではないことがわかる。
 
寒い。寒すぎる。
ダイエーの地下食料品売り場の2倍は寒い。
寒さの方にめっぽう弱い私はすぐに冷却ルーム逃げるように出て25mプールのような大浴槽に向かった。ただ大きいだけでなくその浴槽はなんと思った以上に深い。
身長がV6の岡田君ぐらいしかない私なので油断したら溺れるぐらいの深さなのである。あの男前の岡田君ぐらいなのである。
この浴槽で屁でもこいた場合はその屁が上陸するまでの時間は、桜の花びらが地面に落ちるまでの時間と同等な気がする。おそらく秒速5センチメートルほどではないかと邪推。
小説 秒速5センチメートル (角川文庫)

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 ひとしきりサウナや大浴槽をウロウロしてこれ以上は逆に体に悪い可能性が出てきたあたりまで堪能することに成功した私は、さっぱりしただけで特段感慨深いことも起きないまま大浴場を後にした。

着衣所に置いてある薄いシーツ地のガウンを着て出口のような方向に向かって行くとその先にはラウンジのような場所があり、ちらほらと同じガウンのおっさんがソファーに座ってテレビを見ていた。
私は何か飲み物を飲もうと思い、カウンターがある場所まで歩いた。
するとカウンター前に立ちはだかる細身のおばさんが私を呼び止める。
おばさん曰く
 
「スペシャルマッサージ?」
 
ん?
なにそれ?
私は聞き返す。
 
「なんすか?」
 
この一言で日本人と確信したのか日本語で聞いてきた。
 
「スペシャルマッサージアルケドシテイク?」
 
うーん、なんじゃそら。ただのマッサージではなくてスペシャルな感じなものなのか。
だだのマッサージだけでもくすぐったくて耐えられない気がするのにスペシャルだと悶絶する可能性がある。
とりあえず値段を聞こう。
 
「お金かかりますか?」
 
おばさんは左の口角をややあげて笑顔を壊さない妙な顔で、急に顔を近づけて聞こえるか聞こえないかの小声で言った。
 
「4000元」
 
なんじゃそれ!なんでそんなに高いの!
金銭感覚がレートのおかげでおかしくなっている私でもその金額が高いことを察知した。マッサージってそんなに高かったのか。
てもみんとかのチラシ価格は安かったぞ。もっと。
メナードのフェイシャルエステはもっと高そうだけどそれにしてもスペシャルすぎる。私は断固断る姿勢を示すため手を前にかざし勝間和代みたいな顔で
 
「ノーサンキュー」
 
と言い残して飲み物も飲まずに逃げるように更衣室へ向かった。なんだ、あのスペシャルマッサージの金額は。絶対にぼったくられるやつだ。
日本円にして15000円ほど。15000円もあったら綺麗なおねえちゃんがいるところで飲んだり食ったり遊べるではないか……。
 
――あ、そうかあれはそう言うことか。
 
服を着て靴を返してもらい、カウンター嬢に数千円を払って亜太三温暖を後にして、エレベーターに乗った。
 
あ、そう言うことか。
 
エレベーターの階が下へ進むたびに心の中で
 
あ、そう言うことか。
 
を繰り返している間にエレベーターは1階へ辿り着いた。
私のサウナ体験は終わった。
スーパー銭湯と大して変わらないと言うことを知った。
喜ぶべきか悲しむべきかどちらでもないのかわからない三分の一の純情な感情を押し殺すべく、映画探偵物語の松田優作のように背を丸め薬師丸ひろこが下っていくエスカレーターを眺める視線でMOMO百貨店を後にした。
「ひとりでいて寂しくない奴なんていないよ。だけど、甘えちゃいけないときだってあるんじゃないのか」
男には引き下がらなくてはいけない時があるのだ。
スペシャルマッサージを忘れなくてはいけないのだ。
 
ヤレバヨカッタ……
 
台湾の街はバレンタインデーだった。日本と同じように恋人たちも街へ繰り出している。甘いチョコレートで関係性を向上させる日である。うっすらと女房子供のことを考えながらとぼとぼと北へ向かって歩いた。
父さん、情けなくて涙でてくらぁとあばれはっちゃくの父のごとく念じながらである。
途中で喉が渇いていることに気が付き自販機を探したのだが、日本ほどどこにでもあるわけでもなく、仕方なく大嫌いな変な匂いのするファミマへ入り、飲み物を物色する。
しかし、どの飲み物も危険があぶないので結局コカコーラを手に取り、晩飯を考えるのも面倒なので結局またカップヌードルを手にしてレジに向かった。
精算を終えてファミマを出た後に気が付いた。
今朝食べたものと同じものを晩御飯にしてしまった。
自分のハードボイルドさに顎にないはずのあごひげをさすりながらつくづく思うことがある。
 
早く日本に帰りたい。
 
私が美輪明宏ならヨイトマケの歌後半の如く「かぁちゃぁ~ん!」っと叫ぶにふさわしい状況である。
ヨイトマケの唄

ヨイトマケの唄

 

 北へ向かって歩きながらスマホのグーグルマップを見ていると、どうやら行天宮に近い場所にいる。と言うことはホテルサンルートも目前である。

とにかくたくさん歩いた気がする。
早くゆっくりしたいとしかもう思わない。私の足は前世が棒の可能性が濃厚。ここが台湾だろうが新宿だろうがガンダーラだろうがもうどうでも良いのである。ユートピアもエルドラドもこの時点で私にとってはホテルサンルートのみである。
昨日見た行天宮を横切り、小雨振る台湾を小さな折り畳み傘の隙間から眺め、溢れ出るため息を押し殺しながら歩き、ホテルサンルートの自室へ到着した。倒れこむようにベッドに沈み込む。シーツのさらさら感が疲れた頬を撫でまわす。
 
時間は17:00を過ぎた頃だった。
大浴場であれだけ入浴したにもかかわらずシャワーを浴びることにした。なんだかわからないが打ちひしがれた自分の心ごと洗い流したかったのだ。シャワーを浴びてコロンを叩きウインクひとつすることなく地味にお湯を沸かし、今朝と同じカップヌードルとコーラと言う、何とも言えない予備校生の夜食のようなディナーを楽しんだ。ブレックファーストも同じものを食べたことを気持ちの上でなかったことにすると、全然平気である。
やることがないのでテレビをつけてチャンネルをザッピングしていると、テレビの画面にはロンドンブーツ1号2号の人の番組がやっていた。
とても下世話な内容を日本国外へも露呈していることに若干の懸念を隠しきれない。いまやロンブーと言う呼称が定着してどっちが1号でどっちが2号なのかが曖昧なままになっていることすら誰も気にしちゃいないが、この二人も同じ40歳前後の同世代なのに、私ときたら一体何をやっているのだろうとただひたすら自責の念に駆られるだけである。
面白いはずのバラエティー番組が状況によりここまでつまらないと言うことを実感しつつ、中国語字幕でおどろおどろしくなっている画面を暗がりの中で眺める時間が淡々と過ぎて行った。
21:00
あまりにやることがないので眠ることにした。
 
つづく