東京ハードボイルド

インターネットを使い始めてからもうすでに20年以上の月日がたっていると考えるとなんだかぞっとする。

3年前に台北に行ったときのこと 第五章 空腹論


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これは3年前に台湾へ行ったことを電子書籍化した文章を、ブログ用に追記、校正したものである。全部で十三章になっている。

前回までのあらすじ
40歳になる前に海外旅行へ行ったことないおっさんが、台湾へ一人で行こうとしてパスポートを取ったりする。航空チケットやホテルの予約などに奔走しようやく空へ飛び立つ。台湾に到着後ホテルへ向かい、すぐに観光に出かける。まずは行天宮に向かって人の多さに圧倒される。その後、近くにある占い横丁へ向かい占いを堪能し、腹が減ったので夜市へ向かうことに。

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第五章 空腹論

士林夜市の悲劇

 台湾の電車はMRTと言い東京メトロに似ていた。
ガイドブックにはSUICAみたいなチャージ式カードを買うと便利と書いていたが、結局買い方がよくわからず、近くにいた人が買っていたのを真似てプラスチックのブルーのコインみたいなものを購入し改札に向かった。ドラえもんドンジャラのチップのような、このプラスチックのコインみたいなものが切符の役割となっている。乗る時に改札にかざすと改札が開く。降りるときに改札に入れるとコインは戻ってこない仕組みだ。

改札を入ってプラットホームに着いたが、広くてなんだか幻想的な美しさに唖然とした。日本の地下鉄もきれいだがなにかさびしい空間な気がすることがある。そう言ったことも感じさせない台湾の電車。

電車に揺られてニ駅ほどで士林夜市がある「剣潭駅」に着いた。
なんと読むのかはわからない。ケンなんとか駅。

 

駅から出ると大きな横断歩道があり、渋谷のスクランブルほどではないが、たくさんの人がいる。信号待ちをしていると若い女の子の団体が日本語で話していた。
 
「マジ、ウケルンデスケドォ~、あははっははっ」
 
卒業旅行か何かなのかわからないが日本人との遭遇で、なんだか安心したと同時に一人で異国情緒を味わう気分を壊されたようでもあった。台湾に一人で来ているおっさんは多分そんなに多くはないのである。
信号が変わり横断歩道を人の波についていくように進んでいくと、目の前には広がるのは、ジャッキー映画の香港の映像にあるような過剰な派手さではなく、出来る限りの派手さでとどまっているのが台湾らしい看板。レイクもアコムもプロミスもどうやらここには無いようだ。
どんどん人波に流されて行くうちにどうやらいつの間にか士林夜市に辿り着いているのである。

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早速夕食を食べようと歩きながら食べ物を探していく。
士林夜市は原宿と心斎橋をごちゃまぜにしたような場所だった。歩いていると途中でものすごくきらびやかな神社みたいな建物があったりするエキセントリックな場所である。
歩いている人たちは物凄いでかい声で話しているのだが、あのでかい声で話しているのはどうやら中国本土からの観光客のようだ。
時々、日本語が聞こえてきたのだがなぜか大阪弁がほとんどだった。
 
「ホンマやすごいわぁ。なんやあれ!ごっついなぁー」
 
大阪から台湾へのツアーは物凄く安いと言うことを帰国した後に知った。行列ができている店があったので少し歩く速さを緩めて近づいてみたのだが、なにやらデカいウインナーを焼いたものを販売していた。
これは美味しそうだと思ってさらに近づくと妙な匂いがする。
正直言って臭い。
その匂いに気が付くと同時にここまでに道のりでも、その変な匂いがずっと漂っていたのだ。私はその匂いから遠ざかるように早足でほかの食べ物を探そうと歩き回った。
 
なんだ、あの匂い。
 
しかし、どの食べ物へ近づいてもその匂いがするのである。
例えるなら大量のシナモンと山椒と太田胃散を振りかけたホカホカごはんにさらにパルメザンチーズをかけたみたいな、腐敗臭とも何とも言いようのない匂い。
ツーンと鼻を刺すような臭いから逃げようとどんどん歩みを進めれば進めるほどその匂いは追いかけてくるのである。屋台が少ない場所へ行くと匂いは緩やかになるのだが、ちょっとおいしそうな屋台へ近づく度にその匂いを嗅ぐことになるのだ。
 
オエー
なにこれ、地獄?
 
あんなに食べ物がおいしいとガイドブックでもネットでも評判の台湾だったのだが、美味しいかどうかは別として、とっても臭いのである。おいにーついきー系みたいな。
早足で匂いから逃げていると屋台ではなく少しちゃんとした、フードコートみたいなものがある建物に入った。
ここなら臭い食べ物はないと思ったのだが、これが裏目に出たのだ。
地下一階に降りると階段を降りたところに
 
臭豆腐
 
と言う食べ物を売っていた。
これがもうとんでもなく臭い。名前にすでに臭いと書いているほど臭い。名前の中に臭いと腐るが豆を挟んでいるぐらいだから相当なものである。
地下のフロア全体が驚異的なスメルを放っている。
私は一目散で階段を駆け上がり恐るべきその匂いから逃げだしたのである。鼻から匂いが取れなくなったのか、それともその異臭に敏感になったのか、どこへ行ってもその匂いがする気がする。もしも鼻がセパレートタイプなら取り外して洗浄したいところだが、それができたら花粉症の人が苦労することはないなと、どうでもいいことを考えながらも一目散。
来た時の高揚感とは裏腹に空腹のはずの胃からこみあげる何かを押させながら、足早に士林夜市を抜け出し、駅から電車に乗った。

大戸屋ここにあり

地下鉄の階段を上がり、ホテルに向かって歩いていた。
まさか、わざわざ台湾まで来て夕食を食べることすらできない自分の無力さに打ちひしがれながら見知らぬ国で一人でいる不安感。やはり、占いは当たっていなかったのか。
しかし、それ以前に空腹であることを何とか解消したい。
街を歩いているとマクドナルドやサイゼリヤなど日本でもよく見る、ファーストフードやファミレスが目に入ってくるが、まさか台湾まで来てそれを選択することは愚かすぎるではないか。微弱なプライドとの戦いも始まってしまう。
見て見ぬふりをして歩いていると、とうとうホテルに到着してしまった。
よく叱られた子どもが夕飯抜きの刑に処されることもあるが、まさかこの年齢で夕飯抜きの刑に処されてしまうのかと絶望に包まれつつあった私の目の前に一筋の閃光が射した。
あ、これはアリジャナイカ。
ホテルのエントランス横の地下へ続く階段がある。
その階段横にはショーケースがあり料理サンプルが並んでいた。
見慣れたどんぶり。メニューボードもその横にある。
決意した。
あれほど、誰が台湾まで来て食うのかと思っていた大戸屋へ向かって、その階段を降りていく。まるで夜のヒットスタジオで自分の後に登場する千昌夫北国の春を歌いながら降りていく小柳ルミ子のように、優雅にそしてしなやかに。
 
ありがたいことにその階段の下から立ち込めてくる匂いはなんと驚くことに、かつおだしのいい香りなのである。あぁ、こんなにかつおだしの匂いがおいしそうに感じたのは何年振りだろうか。階段を下りるとそこにはのれんがあり、そののれんをくぐると
 
「らっしゃせー!」
 
この言葉が聞きたかった。
あぁ、所詮私は日本人なのである。
店員はいつものあの感じで私をテーブル席まで案内しメニューを手渡して去っていく。
私は日本語で書かれたメニューを見ながら大きく鼻で呼吸して、あの夜市の匂いがしていないことを確認し、通りがかった店員に声をかけネギトロ定食を注文した。もちろんあったかいうどんつきを頼むのである。
 
半年前に府中の大戸屋で食べた時と同じようにごく自然に定食は運ばれてきて、ごく自然にしょうゆをかけて食べるのである。
周りの客席から聞こえてくるのが中国語であること以外はいつもの大戸屋なのだ。エバー航空機内食以来の食事であり、さらにいつも食べているあの味。
 
あのまま夜市にいたら大戸屋どころか嘔吐屋になっていたに違いない。台湾料理もきっと食べれば美味しいとは思う。だけど、匂いがどうしても受け付けなかった。
大戸屋のレジで精算したがこの時も値段がいくらだったか覚えていない。予定では夜市でたくさん食べるつもりだったのできっと安くついたはずである。もし、高くついていても私にとってはごちそうだったので厭うことはない。ありがとう大戸屋
 
その後、階段を上がってエレベーターに乗りホテルの部屋へ戻ってシャワーに入ってテレビをつけてみた。いろいろザッピングしていたらBSで日本のバラエティがやっていた。画面に映るのは有吉さんだ。
どうしてここまで来て有吉さんを見ているのかは分からないが、この有吉さんとも年齢が同じだと考えると、ナニヲヤッテイルノダワタシハとカタコトの日本語が頭を巡っている始末。
 
テレビを横目で見ながらガイドブックを開いた。日本にいる時と何にも変わりがない夜。それがいいか悪いかは帰ってから決めることにした。
明日はここから近いニニ八公園へ行こうとだけ決めて眠ることにした。
 
しかし、その時気が付いた。
明日の朝食をどうする?
と言うことで支度をしてホテルを飛び出し一番近いコンビニへ向かった。
 
つづく