東京ハードボイルド

インターネットを使い始めてからもうすでに20年以上の月日がたっていると考えるとなんだかぞっとする。

まだ吐く息が白くならない朝、砂漠の枯れ木と出会う旅


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通勤電車の中でカシミア素材のベージュのコートを着た美しい人を見た。美しい人はスマホでパズドラとかあんなような感じの、なにやら丸いものを動かすゲームを楽しんでいた。
私はスマホでゲームをしないのでわからないが、どんなに美しい人でも楽しめてしまうなんて、スマホゲームはすごい発展したと思う。美しい人は身長はやや低めで、仕事は想像するに事務職で、職場ではちゃんづけで呼ばれる感じのかわいげがある美しい人で、髪は少し明るい栗色に染めていて、笑顔よりも真顔が美しいタイプだ。彼女はドアの横部分のエアポケット的スペースに身をねじ込むようにして立ち、スマホに釘づけである。変なおじさんこと私に凝視されていることも知らずにスマホに夢中である。

そんなことは毎朝電車に乗っていると少なからず目の当たりにすることなのである。美しい人など京浜東北線であっても、東京へ向かう電車ならそれなりに存在する。しかし、今朝のその光景は少しだけ違った。

なんと、その美しい人のベージュのコートの背中の部分から、長い縮れた毛が飛び出ていた。間違いない。どっから見てもインモーが飛び出ていた。黒く太いインモーがつんと立つように飛び出ていて、まるで砂漠に残された枯れ木のように静かに聳え立っている。私はその砂漠の枯れ木をまじまじと見つめ、果たしてこれはこの美しい人のソレなのか、はたまた彼氏や配偶者のソレなのか、家族兄弟親族のだれかのソレなのかに思いを巡らせていた。

その砂漠の枯れ木に気が付いている人はどうやらこの電車内では、私だけだと感じてはいるが、どうぞ神様、この美しい人のためにその背中の砂漠の枯れ木がどこかで落ちて消え去るようお願いいたします。そうでないと今日一日の彼女はとても報われない。たった一本のソレだけで人生の流れが変わることもあるかもしれないのだ。そんな夢想を巡らしているうちにいつもの駅に電車は滑り込んでいた。

街は朝の雑踏に包まれていた。改札を抜けて下りのエスカレーターに乗るとまだ始まったばかりの冬の風が額をなでるように肌を刺した。寒い季節の到来だから、ひとしきりその風を受け入れる決意をしたのは昨日の夜のことだ。また、一年が終わりに向かっていく。11月残りの後半はそんな朝で始まるのであった。

美しい人の一日がつつがなく過ぎますように。